おからのField note

生態学を専攻する博士課程の学生の日記です。野帳のようにつらつらつらと。

クロテンなのに黒くない

研究室のゼミで後輩から出たコメント。

「”クロテン”なのに黒くないんですね」

 

 

黒くないエゾクロテン

私が示していた画像は北海道に生息するクロテン(Martes zibellina)の亜種エゾクロテン(M. z. brachyura)だった。

 

実際に北海道でエゾクロテンを見たことはないけれど、エゾクロテンの写真で黒い冬毛の個体は見たことがない。夏毛は確かに黒ずむけれど、真っ黒とは言い難い。

 

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知床自然センターに飾ってあるエゾクロテン。

標本なのでちょっと色が薄いかも。

 

http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-f9-fd/shigeto1953/folder/1275873/78/35417078/img_0?1265541463

http://blogs.yahoo.co.jp/shigeto1953/GALLERY/show_image.html?id=35417078&no=0

 

http://bikkyatre3moa.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_86b/bikkyatre3moa/5778114.jpg?c=a45274541

http://bikkyatre3moa.blog.so-net.ne.jp/2006-12-12

 

 

バリエーション豊富なクロテンの毛色

クロテンはヨーロッパからロシアや中国、そして北海道にかけて分布する。

体色にかなりバリエーションがあるので、これがTHEクロテンだ!と示しにくい。

 

クロテンの名にふさわしく、かなり真っ黒な個体から、

http://img-fotki.yandex.ru/get/9110/1313363.61/0_95cbb_191f237f_XL.jpg

http://about-cats.ru/russkij-zver/

 

エゾクロテンに比べると全体に暗い個体などなど。こういう個体の写真を多く見るかも。 

http://i53.photobucket.com/albums/g62/TigerQuoll/European%20Wildlife/solkin_sable.jpg

http://carnivoraforum.com/topic/9329189/1/

 

 

「クロテン」と言ってもピンとこないかもしれない。

「セーブル(Sable)」と言った方が一般的には知られているかも。

こういうやつ。

http://www.kusakabe-enogu.co.jp/products/rowney/rowney_brush/rowney_brush_02.jpg

http://www.kusakabe-enogu.co.jp/products/rowney/rowney_brush/rowney_brush.html

 

http://cdn.shopify.com/s/files/1/0161/7466/products/bustown-modern-vintage-guy-laroche-russian-sable-bell-sleeve-fur-coat-003.jpg?v=1393034165

Guy Laroche Barguzine Russian Sable Coatbustownmodern.com

 

セーブルと言えば高級毛皮。

今でも養殖場があり、そこでは綺麗な「黒いクロテン」が繁殖されているらしい。黒ければ黒いほど好まれるのだとか。

 

この写真はちょっとつらいな。。

http://cdn2.arkive.org/media/8E/8EACD619-50F7-4D60-8E27-59523BD7D983/Presentation.Large/sable-in-cage-at-a-fur-farm.jpg

 Sable photo - Martes zibellina - G136909 | ARKive

 

 

エゾクロテンの現状

北海道には本来エゾクロテンしか分布していなかったが、現在では太平洋戦争末期に毛皮目的で持ち込まれたニホンテンも、国内外来種として分布している。 

ニホンテンはエゾクロテンに比べてやや大型であり、ニホンテンの分布拡大とエゾクロテンの分布縮小、また両種の交雑が心配される。*1

 

2015年に発表された論文によると、ニホンテンの分布は今のところ石狩低地部の南側に限られるようだ(平川ほか2015 *2)。

しかし本来はその地域に分布していたはずのエゾクロテンについては、ニホンテンに比べて情報が少ないことから、著者たちはニホンテンがエゾクロテンを駆逐しながら分布を拡大したと推測している。そして現状のままではニホンテンが石狩低地部を突破するのは時間の問題と考えられることから、現状の把握が急務である。

 

 

ちなみにエゾクロテンはアイヌ語では「カスペキラ」と呼ばれたらしい。

意味は「しゃもじ」で、民家からしゃもじごとごはんを盗んでヒグマのところに運ぶ、と考えられていたためらしい。なんとも微笑ましい。*3


*1:実際にヨーロッパでは、同所的に分布するマツテンとクロテンの交雑が起こっている。

Genetic analysis of sable (Martes zibellina) and pine marten (M. martes) populations in sympatric part of distribution area in the northern Urals - Springer

*2:平川ほか2015 拡大・縮小はどこまで進んだか―北海道における在来種クロテンと外来種ニホンテンの分布―

*3:いやむしろコソ泥的なマイナスイメージなのだろうけれども笑