イシテン ちょっと厄介で美人なお隣さん
ヨーロッパからアジアにかけて分布しているイシテン(学名Martes foina 英名stone marten ムナジロテンとも呼ばれる)は、他種テン属に比べて人の生活に近いところに生息している。
その名の通り全身が石のような淡いグレーで、胸に白い模様がある。
この色合いのせいか、目がくりくりで大きく見える。ついでにうるうるして出っ張っている気がする。
「美人さん」感が強いあこがれのテン。
ヨーロッパにはこのイシテンのほかにマツテンもいて、分布が重複する地域もあるが、マツテンは森林、イシテンは郊外付近と、すみわけが起こっているというのが一般的な認識。
またヨーロッパの中でもマツテンに比べてやや南寄りに分布しており、果実や昆虫の利用が多い傾向にある。
そのため、テン属の中では植物の種子を運ぶ種子散布者としての研究も活発に行われている。
研究機関に潜入
つい先日、フランスとスイスの国境にある欧州合同原子核研究機構(CERN)の世界最大の粒子加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」をダウンさせた張本人。
おかげで予定していた実験再開が遅れるらしい。
2日後の今日、日本でも報道されているのを確認した。
はいイタチ。はい。うん。そうね。はい。
厳密には、イタチ科テン属のイシテンです。
体重900g~1800g程度の、いわゆる「イタチ(イタチ科イタチ属)」と言ってイメージするよりもう少し大きい動物です。
エンジンルームに侵入
ドイツでは、車のワイヤーがかじられたことをきっかけにカメラを仕掛け、1年以上かけて自宅での撮影に成功した人も。
美形だなあ。
同じくドイツのAudiは、イシテンとフェレットに車を買い与える与える実験も行っている。なんとリッチな!
数年前の日本哺乳類学会では、ニホンテンを対象にどのくらいの穴のサイズなら通り抜け可能か?という実験を行っているポスターを見かけた。
たしか直径5cm前後だったと記憶している。
しかも実験はオスを使用していたため、体サイズに性的二型が見られるテンのメスではさらに小さくなるだろう。
(上記のAudiの実験は、詳細は知らないけど身体の線が細く、メスっぽい。だとしたらさすが世界のAudi?)
数センチの隙間で入ってしまうのであればエンジンルームなんて防ぎようがない気がしてしまうけど、そこは世界のAudiにぜひ期待したい。
侵入の際にはそこまで本気モードにはならないと思われるが、脱出の際の本気モードは手が付けられない。
針金でも結束帯でも、顎さえ入れば噛みちぎる。
自動撮影カメラ調査や調査捕獲では、何度その顎の被害にあったことか。
ついでに好奇心旺盛で、後ろ足で立ち上がって前足でいじくるので かわいい たちが悪い。
サッカー場に乱入
そんな顎に噛みつかれたら…と思うと身の毛がよだつ。
民家で見つかり動物病院で保護されていた、生まれて数か月の子テンにじゃれつかれたことがある。力加減というものなど知らず、血と涙がちょちょぎれるほど痛かった。
成獣になったら痛いなんてもんじゃなく本当に噛みちぎられそうな気がする。が、実際に噛まれたサッカー選手がいる。
数年前、スイスのサッカーの試合にイシテンが乱入。
最終的に選手2人の手によってつまみ出されたわけだが、最初からグローブをしたゴールキーパーに頑張ってほしかった…。
お二人とも捕まえ方がやさしい。
スイスサッカー場にテン侵入、DFにかみつき「ドリブル突破」 | ロイター
(記事中ではマツテンと言っているがイシテンの間違い)
日本ではテンは(知っている人からすると)深山の動物というイメージを聞くが、イシテンはどちらかというとタヌキのような、人の生活環境の近くに生息する、やや厄介者のイメージなのかも(日本でも一応家屋に入るという例はあるけれども)。
人の生活に近い生き物はどうしてもそういう認識をされがち。近くに住んでいると、人も動物も関係なく摩擦が生じるのは仕方がない。
でも残念なことに、記事中ではweaselとかferretみたいな生き物、という紹介の仕方をされているので、やはりマイナーであることには変わりなさそうだ。
クロテンなのに黒くない
研究室のゼミで後輩から出たコメント。
「”クロテン”なのに黒くないんですね」
黒くないエゾクロテン
私が示していた画像は北海道に生息するクロテン(Martes zibellina)の亜種エゾクロテン(M. z. brachyura)だった。
実際に北海道でエゾクロテンを見たことはないけれど、エゾクロテンの写真で黒い冬毛の個体は見たことがない。夏毛は確かに黒ずむけれど、真っ黒とは言い難い。
知床自然センターに飾ってあるエゾクロテン。
標本なのでちょっと色が薄いかも。
http://blogs.yahoo.co.jp/shigeto1953/GALLERY/show_image.html?id=35417078&no=0
http://bikkyatre3moa.blog.so-net.ne.jp/2006-12-12
バリエーション豊富なクロテンの毛色
クロテンはヨーロッパからロシアや中国、そして北海道にかけて分布する。
体色にかなりバリエーションがあるので、これがTHEクロテンだ!と示しにくい。
クロテンの名にふさわしく、かなり真っ黒な個体から、
http://about-cats.ru/russkij-zver/
エゾクロテンに比べると全体に暗い個体などなど。こういう個体の写真を多く見るかも。
http://carnivoraforum.com/topic/9329189/1/
「クロテン」と言ってもピンとこないかもしれない。
「セーブル(Sable)」と言った方が一般的には知られているかも。
こういうやつ。
http://www.kusakabe-enogu.co.jp/products/rowney/rowney_brush/rowney_brush.html
Guy Laroche Barguzine Russian Sable Coatbustownmodern.com
セーブルと言えば高級毛皮。
今でも養殖場があり、そこでは綺麗な「黒いクロテン」が繁殖されているらしい。黒ければ黒いほど好まれるのだとか。
この写真はちょっとつらいな。。
Sable photo - Martes zibellina - G136909 | ARKive
エゾクロテンの現状
北海道には本来エゾクロテンしか分布していなかったが、現在では太平洋戦争末期に毛皮目的で持ち込まれたニホンテンも、国内外来種として分布している。
ニホンテンはエゾクロテンに比べてやや大型であり、ニホンテンの分布拡大とエゾクロテンの分布縮小、また両種の交雑が心配される。*1
2015年に発表された論文によると、ニホンテンの分布は今のところ石狩低地部の南側に限られるようだ(平川ほか2015 *2)。
しかし本来はその地域に分布していたはずのエゾクロテンについては、ニホンテンに比べて情報が少ないことから、著者たちはニホンテンがエゾクロテンを駆逐しながら分布を拡大したと推測している。そして現状のままではニホンテンが石狩低地部を突破するのは時間の問題と考えられることから、現状の把握が急務である。
ちなみにエゾクロテンはアイヌ語では「カスペキラ」と呼ばれたらしい。
意味は「しゃもじ」で、民家からしゃもじごとごはんを盗んでヒグマのところに運ぶ、と考えられていたためらしい。なんとも微笑ましい。*3
*1:実際にヨーロッパでは、同所的に分布するマツテンとクロテンの交雑が起こっている。
*2:平川ほか2015 拡大・縮小はどこまで進んだか―北海道における在来種クロテンと外来種ニホンテンの分布―
*3:いやむしろコソ泥的なマイナスイメージなのだろうけれども笑
ピンセットこれくしょん
前回新しいスケジュール帳のブログを書いたので(2016年の相方 - おからのField note)、今回は食性分析や解剖に使う愛用のピンセットたちについて。道具シリーズ第2弾。
私が使っているピンセットはこの3本。
上下2本は食性分析用で、中央が解剖用。
一番上のピンセットはご覧のとおりツル首型。
食性分析のときにメッシュの上に溜まった内容物をざっざとかき集めるのにはやっぱりこの形。
コシもほどよくあるけど軽いので、長時間の作業でも疲れない。
お値段1200円くらい。ハンズで購入。ANEXというところのもの。実はトゲ抜き笑
顕微鏡下で見ると噛み合わせがやや甘いのが分かるけど個人的には気にならない範囲。
購入の際にはお店の人に頼んでいくつかパッケージから出してもらって、一人渋い顔して無言でピンセットパコパコしてました。
長時間分析してると地味に指に疲労たまるのよね。。でもつまんだ感じがコシがなくて軽すぎるのもイマイチ。実際に触ってみて使用感を確認するのは大事!
完全に怪しい人だったけどおかげさまで満足な買い物に。ありがとうハンズ博多店のお姉さん!
そして一番下のピンセットはもらいもの。上のツル首ピンセットの補佐用に左手で使っている。
よく実験室にあるふつうのピンセット。幸和ピンセットのもの。
先端は前の持ち主さんがすでに研いでいたみたい。
ややかためだけどちょっと押さえたりつついたりする程度なので問題なし。
中央の解剖用ピンセットも幸和ピンセットのもの。そして実はこれもトゲ抜き。
先輩からおすすめしてもらって気に入って購入。これは1800円くらいだったか。
コシはあまりなくて軽め。先端にギザギザがついていて、一度つかんだら離さない安定の使い心地!
解剖時の滑ってつかみにくい部分や、メスを使った細かい部分の作業にも安心して使える。
今のところこの3つで満足しているので買い足しの予定はないけれど、世の中には何百というピンセットにものすごい愛情を注いでいる方がいらっしゃる。
ピンセットへの愛情が溢れ出て止まらない。
わたしもピンセット購入時には大いに参考にさせていただいた。
このまとめの中に出てくるコシの強さをスケールの重さであらわす方法を参考に、以前わたしも試してみた。
正確な値は忘れてしまったけれど、確かにここのまとめで「使いやすい」とされていた重さにだいたい一致していて納得(補助用の一番下のピンセットはやはりやや重めだったけれども)。
なのでピンセットをお求めの方はこのまとめを参考に、お店の人に怪しまれながら、ぜひ納得のマイピンセットをゲットしてください!
そしてピンセットの先を自分で研いだりするのはまだ先の知らない世界。かっこいいなあ。
ちょうど先日、伊丹市昆虫館でピンセットの研ぎ方講座が開催されたそう。うらやましい。タイミングが合えばぜひ参加してみたい。
ただあんまり尖ったピンセットだと、糞や胃からの内容物の中でも特に果皮などの柔らかいものの場合、ちょっとつんつんして感触を確かめたいだけなのに、ブスブス指してしまってやりにくかったりする。なので私の場合はあんまり鋭く研がない方が使いやすいとは思うけど。
道具への愛情っていいなあと思うし自分の中にもちょっぴりだけど芽生えてきている気がしている。
もともとこだわって選んで納得したものを使うことにすごい満足感を感じるタイプだからなあ。そして何年も何年も使っているうちにさすがにガタがきて泣く泣くお別れするパターン…いいんだか悪いんだか。