おからのField note

生態学を専攻する博士課程の学生の日記です。野帳のようにつらつらつらと。

ウナギはゾウやパンダと同じくらい危険な状況?

ニホンウナギがIUCNのレッドデータブック絶滅危惧種(EN)に指定された。

 
正直、少しほっとしている。
 
 
 
IUCNは世界規模・種レベルで絶滅の危機に瀕している動植物の指定を行っている。
法的な規制はかからないが、世界的に信頼される指針として広く参考にされている。
 
 
 
レッドリストには以下のようなランクがある(IUCNレッドリストカテゴリー)。
 
 
絶滅 Extinct(EX) すでに絶滅したと考えられる種
 
野生絶滅 Extinct in Wild(EW) 飼育・栽培下であるいは過去の分布域外に、個体(個体群)が帰化して生息している状態のみ生存している
 
 
絶滅危惧IA類  Critically Endangered(CR) ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
 
絶滅危惧IB類  Endangered(EN) 近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
 
絶滅危惧II類   Vulnerable(VU) 絶滅の危険が増大している種。現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続いて作用する場合、近い将来絶滅危惧I類のランクに移行することが確実と考えられるもの
 
 
準絶滅危惧 Near Threatened(NT) 存続基盤が貧弱な種。現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては絶滅危惧として上位ランクに移行する要素を有するもの
 
 
軽度懸念 Least Concerned(LC) 基準に照らし、上記のいずれにも該当しない種。分布が広いものや、個体数の多い種がこのカテゴリーに含まれる。
 
 
情報不足 Data Deficient(DD) 評価するだけの情報が不足している種
 
 
 
今回、ニホンウナギ絶滅危惧種3ランクの中でも2番目に高いランクであるENに位置付けられた。
 
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さっそく更新されていた。
 
 
 
ではこのENに分類されている動物には、ほかにどのような種がいるだろうか。

あたりをつけてIUCNのレッドデータ検索ページThe IUCN Red List of Threatened Speciesで検索してみた。

 
 
 
まずはレッサーパンダなんかどうだろう。
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あら。ENよりも一つ下のVUだ。
 
 
 
ではわたしの調査地対馬に生息するベンガルヤマネコではどうか。
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ところがどっこい、軽度懸念のLCだった。
 
 
ベンガルヤマネコは日本では西表と対馬に生息し、それぞれ日本ではイリオモテヤマネコツシマヤマネコと呼ばれ、東南アジアに広く分布する中型食肉目である。
 
なんでLC?日本では絶滅危惧種の代名詞みたいなもんなのに!
 
ここで注意したいのは、あくまでIUCNのレッドデータは世界規模・種レベルの評価という点。
 
ネコ科の中では世界最小レベルの島に分布するイリオモテヤマネコツシマヤマネコは、そもそも生息可能な個体数の上限が低い。
地域レベルで見ると個体数は100頭前後と非常に少なく、特にツシマヤマネコは生息域が減少しているという状況にある。
そこに交通事故などの打撃があると、一気に地域絶滅が起こりうる。
 
ただし世界規模・種レベルで見ると、それほど絶滅が心配される状況ではない、とIUCNが判断したということだろう。
 
 
 
 
じゃあ何がENなの?と、有名どころを検索してやっと出てきた。
 
 
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もちろん、レッドリストのランクが同じだからと言って、種間で単純に比較することはできない。
 
それぞれの種、さらには上記のヤマネコのように地域レベルで、様々な課題を抱えている。
 
それらを一括りにして、この種とこの種は同じ状況、と言うのは乱暴だ。
 
それぞれに、課題を克服することは難しい。
 
 
しかし少なくとも、ウナギはゾウやパンダと同じランクに登録されたということは事実だ。
 
 
 
ウナギに話を戻すと、海の生態系が陸の生態系に比べてどれほど分断化が起こりうるのかという知識や、ウナギの生態に関する十分な知識を持ち合わせていないのだが、今回の登録は、ニホンウナギは世界規模・種レベルで見たときにかなりヤバい状態にあると判断されたということ。
地域レベルで見ると、すでに確認されなくなった例もあるかもしれない。
 
 
ただしここに挙げた哺乳類の例と魚類であるウナギでは大きく違う点がある。
中学理科で習う内容だっただろうか、両者は産仔数がケタ違いに異なる。
 
今ここでわたしたちが乱獲(タイポじゃない。乱獲。)の手を止めれば、哺乳類とは比べものにならないスピードで個体数が回復する、、かもしれない。
そうすれば、子供たち、孫たちとおいしくウナギが食べられる日が来る、、かもしれない。
 
今、わたしたちの世代が、我慢するときなのではないのかな。
 
 
 
正直、
絶滅危惧種って言ってもスーパーに並んでるし、大丈夫なんじゃないの?」
「養殖って書いてあるし」(ウナギは完全養殖できません!)
「今までだって普通に食べてきたし」
「おいしいから」
「魚だし」
と、これまでの報道やTwitterなどを見ていて、現状ではウナギの絶滅が危惧されているという事態が軽んじられているように思えてならない。
 
というか、十分な関心が払われず、適切な報道がなされていないと言うべきかもしれない。
安くなるとか、ならないとか。大事なのはそんなことじゃない。
 
 
しかし、環境省レッドリストに加え、今回のIUCNのレッドリストにも登録されたことによって、そして例えばこうやってほかの動物にも目を向けてみることによって、ウナギに対する上記のようなバイアスを取り払い、ウナギの現状を改めて考えるきっかけになればいい。
 
その上で、食べる食べないは、現状では個人の判断に任せられる。
 
ただしそれが"本当においしいと思えるかどうか"は、今一度、多くの日本人に考えてもらいたい。
わたしはこういうことを知ってしまったから、せっかくのおいしいうなぎをおいしく食べられないから、もったいないから、食べない。
 
 
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